2008.10.06

「トピアリー」(宮崎雅代著)を読んだ

「トピアリー」(宮崎雅代 グリーン情報 08年9月 2100円)を読んだ。

巻末の著者プロフィールによれば、宮崎氏は損保会社のOLから植物に目覚めてハーブやフラワーアレンジの資格を取得し、さらにトピアリーに関心を持って研究を深め、2001年にははままつフラワーパークで日本トピアリー協会から第1回トピアリー大賞を受賞している。
その後㈱ネバーランドインターナショナルを設立し、最近日本トピアリー協会の会長に就任したようだ。

私にとって本書は待望の書であった。
1年ほど前にトピアリーを知り、いろいろ情報を集め実作にも手を染めたが、いい解説書がない。総合的にトピアリーを扱った本は皆無といってよかった。
そういう中での本書は、世界の素晴らしいトピアリーガーデンの紹介や巨大なトピアリー農園、フレームを使ったさまざまなオブジェなど目を見張る思いだった。
何にもましてトピアリーに対する著者の情熱が伝わってきた。
実作でさっぱり成果が上がらず(半年では当然だが)、トピアリーを忘れかけていた私を再び元気付けてくれた。
参照:「黒潮丸のトピアリー大研究」

ところが<トピアリーの種類>の項に入り、いろんなトピアリーを紹介する段になって疑問を持ち始めた。
モス、メッシュ、ドライフラワートピアリーなど、テーブルトップで楽しむアイテムまでトピアリーに含めている。
私にとってトピアリーはやはり屋外で楽しむものであって、テーブル上の手芸までトピアリーとするのは違和感がある。
さらにはハンギングバスケットやコンテナガーデニングに言及し、あまつさえ立体花壇(モザイカルチャー)までトピアリーの範疇に入れようとしている。

著者の趣味として、㈱ネバーランドの営業として何をどう扱おうと構わないが、今や日本トピアリー協会の会長の著書となれば、その内容は協会の考えを反映したものと受取られる。
私がトピアリーに関心を持った当初、まず頼りにしたのが日本トピアリー協会のホームページであった。そこから多くの有益な情報を得た。
ただ、2004年以降の更新がなく、活動は休止している如くであった。
今回本書により宮崎氏の会長就任を知り、活動再開を祝福し、今後の活動に大いに期待するものである。

しかしテーブルトップ・トピアリーを協会の活動対象に含めるのだろうか?
ハンギングバスケットやモザイカルチャーを本当にトピアリーの1部門と考えるのだろうか?
この辺りを明確にしないと、日本トピアリー協会の発展は難しいように思う。

 

2008.03.14

国際栽培植物命名規約

080314nomenclature

何事でも、物事の始まりは名前だと思っている。
名前を覚えることからすべては始まる。

私がガーデニングにのめりこんだのも、ある年のわが庭の花の開花を毎朝記録したことだった。
250種を記録し、名前の判らなかったのは2種類だけだった。そこまで名前を覚えた自分に満足だった。
とても大変な作業で、今はもうやっていない。(ボケも進んでいる)

ヨットでも、各部、各品の名前を覚えない人間はいずれヨットの世界から消える。

名前は正確に覚えなければならない。
植物の名前は複雑である。地元での呼び名があり、通称があり、商品名があり、学名がある。
私はガーデニングの勉強を始めた当時、きちんとした命名のルールを知りたいと思い、そのルールブックや解説書を探した。
ところがそれが無かった!

今にして知るのだが、わが国にはこれまで「国際栽培植物命名規約」の翻訳がなかった。
命名規約の淵源は植物分類学の祖リンネの2名法に遡るのだが、国際栽培植物命名規約が初めて出版されたのは1953年である。
改訂を重ねて最新版は2004年の第7版である。
一部の要約解説はあり、「園芸植物大事典」と「日本花名鑑」は第6版に準拠するということだったが、これまでわが国にきちんとした翻訳はなかった。植物命名のルールブックはなかった。

2005年、翻訳出版の予告があった。
<植物関係者のバイブル---本邦初★独占翻訳出版>
「国際栽培植物命名規約2004」 アボック社  定価15000円 予約特価7500円

私は早速申し込んだ。
ところが出版は遅れに遅れた。
何度も、もう出るよ、もすぐよ、と声がかかりながら、入手したのはやっと2008年の3月であった。

翻訳および出版は困難を極めたらしい。
そうだろう、最初の翻訳なのだ。しかもルールブックだから間違えてはならない。翻訳委員会の委員長大場秀章氏は、「これは六法全書だ。」と言っている。
それだけ苦労して、初版の印刷部数はたったの500部という!

私はこの本の内容を読むことは終生ないであろう。
しかし入手して満足である。

2006.06.14

「茶会記の手引き」を読む

「茶会記の手引き」(淡交社)を読んだ。
古い本かと思ったら今年5月の発行である。
編者として「淡交社編集局」とあるだけで著者紹介などない。どうやら三田富子という人が書いているらしいがどういう人か判らない。

私はこれまで茶会記は、茶席の亭主あるいは招かれた客が、その日のお道具など心覚えにしたことを記録したものだと思っていた。
この本を読んでそうではないことを知った。
茶会記は茶会の企画書なのであった。
亭主はその日の茶会の目的、顔ぶれによって趣向を考え、道具を組んでいく。
まず掛け物(掛軸)、道具、花、花器、菓子などなど・・。大変な企画なのである。
亭主はこうした組み合わせを紙に書いてみる。推敲する。
この会記が茶会運営のもととなり、シナリオ・台本としてお運びや水屋の人々にも配られる。
こうして全員が心を一つにしてお客様を迎える。

優れた茶会記を作るには(=茶会を催すには)、何十回も自分が茶会を営んでみなければならない。
それだけの知識と道具を持たなければならない。生半可なことではない。

かりに道具は持たないにしても、お茶を点てるために会記をつくる。
これがもてなしの原点である。

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茶会記は企画書であるが、あとで静かに読み返し、その茶会のたたずまいを心に思い出し、いつまでもその感激を持ち続けるためのものでもある。
我々は茶会記を読むことで、500年も昔の茶席の有様を髣髴と目に浮かべることが出来る。

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私が茶会記に関心を持ったのは茶の湯の世界に心入れがあるからではない。
茶の湯に茶会記あり、生け花に立花図あり、ならば「お庭巡り」「お庭拝見」に花会記や植栽図があってしかるべきではないかと思ったからである。
日本におけるオープンガーデンの提唱者の1人として、花会記の文化を作りたいとの思いがある。

ただこの書を読んで、道具立てならば或いは借りてでも組むことは出来るが、花は季節に逆らって咲かせることは出来ないと思った。
温室の花を庭に持ってきても花会記には載せられない。

振り返ってこれまで<黒潮丸通信>やわが<ブログ>に、茶会記について記事を4回書いている。
ここにまとめたのでご覧頂きたい。
「茶会記と花会記」

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2005.08.17

ブックオフとアマゾン

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ミステリーを中心に読み散らした文庫本を30冊ほどブックオフに持ち込んだ。
数を数えて、汚れのひどいのを刎ねて、600円くれた。
ゴミとして捨てるより遥かにましだ。誰かがまた読んでくれさえすればいい。
ブックオフはいい店だ。
後味が悪いのは、本のタイトルは一切見ず冊数と汚れだけを見ることだ。本としてではなく物として扱っている。

その夜単行本を6冊アマゾン・マーケットプレースで売りに出した。
なんと翌朝までに3冊、4日目に1冊売れた。計3300円。
アマゾンで嬉しいのは、その本を欲しい人が買ってくれることだ。本当に嬉しい。
アマゾンは素晴らしいシステムを作ってくれた。

売れた本。
<1688-バロックの世界史像-ジョン・ウイルズ><デザインは言語道断-川崎和男><家父長制と資本制-上野千鶴子><タオ━老子-加島祥造>

私も所蔵本をすべて売るわけではないが、もう絶対に読まない本を死蔵しておくのは本意ではない。


~~~04・9・13投稿再録~~~
アマゾン・マーケットプレースでの値付け

2週間前にアマゾンのマーケットプレースに5冊出品したのですが、本日完売しました。万歳です。
「1421-中国が新大陸を発見した年 (ギャビン・メンジーズ)」や「ソロス (マイケル・カウフマン)」、「HPクラッシュ (ピーター・バローズ)」など売れそうな新刊ばかりでしたが、値付けも良かったと思っています。

私の値付け方針は次の通りです。
アマゾン・マーケットプレースの場合、買い手は出品価格に加えて360円の送料を負担します。
それで私は送料込みの買い手支払い額が新刊価格の60%程度になるように値付けします。
あえて古本を買う気になるのはそんな値段ではないでしょうか。

具体的にいうと2000円の定価の本の場合、900円で出品します。すると買い手の負担額は1260円となります。

それで私の手取りはどうなるか。
成約料として1件100円、販売手数料として135円(価格900円の15%)、合計235円が差し引かれます。それと送料として260円支給されるのですが、普通郵便で送って390円はかかりますので130円の不足が出ます。トータルで365円の出費。
900-365=535円が私の手取りとなります。

少ないようですが、死蔵してゴミで出すより読みたい人に引き取ってもらえたらこんなに嬉しいことはありません。
BookOff!に持っていっても50円くらいにしかなりません。

追記
アマゾンは900円の古本を扱って300円以上の収入になります。いい商売をしています。
物流は客同士で完了しますから、アマゾンとしては決済機能の提供で若干のリスクを負うだけです。
システム構築は固定費でもう償却済でしょう。

2005.07.28

ガーデン読書録

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黒潮丸のガーデン読書録
ここを開くと図書リストが出ます

book-teiennisisu

2005.03.07

信長の茶会記

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わが家にあった「茶会記百選」(裏千家茶道教科15 淡交社)に、信長が津田宗及を招いた茶会記が出ていた。

天正2年(1574)2月3日  「天王寺屋会記」

堺衆であり本願寺門徒である津田宗及にとって、堺に矢銭を課し石山本願寺を攻めた信長はとても許すことの出来ない相手であった。しかし天下の趨勢に抗すべくなく、天正1年に京都での信長の茶会に列席、翌2年信長の本拠岐阜に参賀して寵を得て、ようやく信長から茶会に招かれたのであった。
会記には道具類から料理に至るまで細かく記されているが、中に「紹鴎茄子」という名器がある。これはもと武野紹鴎の所蔵であったが、娘婿の宗久が預かり、信長に献じたものであった。これにより宗久は千石を拝領したという。その後再び信長から宗久に賜り、秀吉に献じられ、徳川秀忠、東本願寺、河村瑞軒などを経て鴻池家に伝来するという。

招かれたとはいえ茶をたてるのは宗及である。信長は宗及の点前を見ていて自らは服さず、宗及に賜って宗及が自服したという。

茶会記あるがゆえに、われらは今この光景を瞼に見ることが出来る。
「百選」の中には千利休、明智光秀、豊臣秀吉、小堀遠州、松平不昧などの名前も並ぶ。
毎度言う、茶に茶会記あり、花に立花図あり、何ゆえ庭に植栽図の文化なきや。

2005.03.05

華道史

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「花僧━池坊専応の生涯」 澤田ふじ子 1986 中公文庫 980円
「空蝉の花━池坊の異端児・大住院以信」 澤田ふじ子 1990 中公文庫 1000円
「天涯の花━小説・未生庵一甫」 澤田ふじ子 1989 中公文庫 940円
「華術師の伝説━いけばなの文化史」 海野弘 2002 アーツ&クラフト 2200円
「前衛いけばなの時代」 三頭谷鷹史 2003 美学出版 3000円
「華日記━昭和生け花戦国史」 早坂暁 1989 小学館文庫 760円
「巨億の構造━華道家元の内幕」 渡辺一雄 1986 光文社文庫 420円

この2年間に私が読んだ華道界に関する書物である。
ここに並べた順は扱っている時代順である。発行年は単行本としての初刊年であり、文庫本としての初出年ではない。
「巨億の構造」以外は現在入手可能である。「巨億」は古本で入手した。

ガーデニング&ガーデンデザインに関心のある私が華道の本を読んだのは、「茶会記」「立花図」への関心からであった。
年年歳歳花変わらず、歳々年々人同じからず、というが、実は花は変わるのである。庭の花、花壇の花は、その年の種苗の入手や気候や手入れによって種類も咲き具合も異なる。また連作忌避ということもある。ある時の花は、その時だけの花である。
ある客を迎えたオープンガーデンにどんな花が咲いていたか、これは記録すべきではないかと私は思った。
最初に思いついたのは「茶会記」であった。茶会は「茶会記」を残す。
客。床。釜。香合。花入。茶入。盆。茶碗。茶杓。会席-汁、刺身、めし、煮物、菓子・・。
例えば手元にある「裏千家茶道教科-茶会記百選」を開けば、千利休、信長、秀吉、武野紹鴎、小堀遠州などの茶会を今に瞼のうちに見ることが出来る。わが国の文化の中でも際立った宝物である。
そして「茶会記」から「立花図」に思いが至った。
「茶会記」「立花図」「ガーデン植栽図」はとりあえず置いておいて、これら書物の感想を書いておきたい。

澤田ふじ子の3部作は小説である。小説でしか書けない世界である。あまりに資料が少なく歴史書としてはまとめようがないのではないか。
池坊中興の祖といわれる専応は室町の人。池坊の名代として江戸に上って(下って?)10年遂に法院継承ならなかった以信は江戸初期の人。池坊と天下を2分するといわれた未生流の開祖一甫は江戸後期の人。
資料は殆どない中で、7割8割が澤田ふじ子の創作であろう。大変な筆力だ。彼女の小説をこの3部作で初めて読んだが他にも膨大な(100冊もの)小説を書いている。どこでそんな力を培ったのだろう。いつ資料を集めるのだろう。すごい人だ。

それにしても<立花図>の存在の大きさを思う。
なぜガーデニングフェアの花壇やコンテナやハンギングコンテスト入選作の植栽図なきや。

「華術師の伝説」海野弘
生け花に関して神話の時代、記紀万葉から説き起こして明治20年代までの記述である。
著者は特に華道の縁者ではなくジャーナリストであり(既に10数冊の著作があって文筆家、評論家といっていい)、非常に幅広い視点から生け花を見ていて、この著は華道界を大いに裨益したのではないか。
それにしても池坊、古流、遠州流などの起源から説き起こし、家元制度(企業化)の確立には不立文字では駄目でテキストの存在が必須だとの指摘はあらためて納得させられた。もっと近代の華道各派の角逐などを知りたかったのだが、それはこの書の対象外であった。

「前衛いけばなの時代」 三頭谷(みずたに)鷹史
なんとなく「前衛いけばな」とは戦後の産物のように思っていたが、この書によると祖は1933年の「新興いけばな宣言」に求められるという。重森三玲が呼びかけ、宣言を発し、「日本新興いけばな協会」設立を目指したが、結局実現しなかった。
重森三玲は庭園史研究の重鎮であり造園家 でありいけばな研究家である。そして予定メンバー6人の中に若き日の勅使河原蒼風も入っていた。宣言草稿には、「懐古的感情を斥ける」「型式的固定を斥ける」「道義的観念を斥ける」「植物学的制限を斥ける」「花器を自由に駆使する」などの文言が入っていた。全体としてまさに革新的であり、「植物学的制限の撤廃」、「花器の自由」は前衛いけばなの本質となっていった。
新興協会は実現しなかったが重森三玲は1949年にいけばな批評誌「いけばな芸術」を発刊する。
・・・・・と続くのだが、著者はこれらの古典文献から当時の雑誌、週刊誌、いけばな草月などを丹念に読み込んで歴史を追ってゆく。きっちりと腰の据わった力作である。
そして関心の焦点を蒼風の彫刻家としての活動、海外での評価に当てていく。蒼風は1961年フランス・レジオン・ドヌール勲章受賞を始めとして66年には米・二十世紀博に「世界の彫刻家20人展」に招待される。三頭谷(みずたに)はこれらを蒼風に対し積極的に評価するが、国内のいけばな界はその頃から前衛の時代ではなくなっていくのである。
三頭谷(みずたに)は美術雑誌記者のジャーナリストでありこれまでにまとまった著作はないが、この著をもって美術評論家の一角を占めたのではないか。
それにしても小原豊雲、安達潮花などのその後を書かなかったのは物足りない。華道界に深入りすると本の売れ行きに障ると思ったか。

「華日記━昭和生け花戦国史」 早坂暁
面白い!
放送作家早坂暁が一時「生け花新聞」の編集長であり生け花評論を書いていたとはまったく知らなかった。しかし放送作家として売れっ子になったからこそ華道界についてここまで書けたのであろう。前述の海野氏、三頭谷(みずたに)氏では営業的にとても書けない世界だ。
本書は草月流、小原流、安達挿花、池坊について、終戦直後のスタートから次代への跡継ぎ騒動までをきっちりと書く。草月流の脱税摘発事件から霞の出奔と妻子ある男性との結婚、池坊のお家騒動、安達瞳子の家出と独立、実に面白い現代史だ。われらから10年くらい上の世代までの特に女性にとってまさに同時代史であり、こんなに面白い読み物はないのではないか。
小学館文庫(760円)でまだ入手可能である。ぜひご一読をお勧めする。

「巨億の構造」 渡辺一雄
池坊は室町時代に発し、華道諸流派すべての家元を自負する。
先代は早く亡くなり現家元専永は未だ幼く、長く家元不在の状態が続いた。この間池坊の組織を担ったのが専永の叔父山本忠男であった。彼は華道とは縁がなく、もっぱら事務屋として政治家として組織の維持・拡大に働く。しかし古く、巨大な金の流れる世界だけに陰謀が渦巻く。そこに池坊保子が嫁いでくる。
この書は池坊のお家騒動、専永の浮気騒動を扱ったキワモノ小説である。
特筆すべきは池坊保子が「解説」を書いていることである。