作家佐伯泰英に随筆「惜櫟荘だより」がある。
佐伯泰英は「居眠り磐音江戸草紙」シリーズなどで知られる時代小説作家である。
出版不況の折から時代小説の出版もままならない中で、毎月<書下ろし時代小説>を文庫本で発行するジャンルを開発し、ベストセラーを連発している。
もともと文庫は単行本として世評が確立したものをアーカイブとして収めるものであった。書下ろし時代小説は文庫本に最もそぐわない。
だから佐伯は自らを卑下して月刊文庫家と自称する。
~~~惜櫟荘の修復~~~~~~~~~
その佐伯が仕事場として2003年に熱海に別荘を購入した。1930年代に開発された伊豆山の別荘地である。
眼の前の相模灘の眺めや豊かな自然に充分満足していたが、ある時隣りの岩波家の別荘が売りに出されると聞いた。
初めて行ってみるとそれは素晴らしい建物であった。1941年岩波茂雄が吉田五十八と組んで建てた近代数寄屋の名建築「惜櫟荘」であった。
これを壊してはならない、と佐伯は「惜櫟荘」を入手し完全修復を志す。
解体し、すべての部材を保存して復元する。東大寺ばりの修復工事であった。
その過程を毎月岩波の広報誌「図書」に連載したのが「惜礫荘だより」である。
2014年、日本建築学会文化賞を受賞した。
~~~中銀ライフケアマンション第三伊豆山~~~~~~~~~
熱海に老人ホームを探す中で、「中銀ライフケアマンション第三伊豆山」に行き当たった。
「中銀ライフケア マンション」は老人ホームではなく分譲マンションであるが介護機能を持っている。熱海に10ヵ所ほど展開している。
その中の「第三伊豆山」に着目して訪ねたのだが、これがまた最高の立地と施設であった。
眺望は真鶴半島から錦ヶ浦まで殆ど170度ひらけ、エントランスやロビー、食堂は一流ホテルの如くである。
そこの最高の1室はさすがに高い値段を付けていたが、「300万ほど下がらないか」と言ったら「検討する」との返事だった。
慌てましたね。
よくよく考えたらこれからの老残の姿をあのロビーや食堂に毎日運ぶのはどんなに気疲れすることだろう。
結局断った。
第三伊豆山と惜櫟荘は直近の場所であった。
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相模灘に黒潮は流れない 黒潮丸