~~~王維・渭城の朝雨~~~
先日、学友O兄より「西安から敦煌まで」の旅行記をもらって感動した。
80才を超えて1800kmのバスツアーへの単独参加である。
彼は30年前に同じコースを旅した経験があるというが、それにしても何たる気力、体力であろうか。
途中の祁連山脈は平均高度4000m、長さ2000kmという。
学識経験に裏打ちされたその所見は並みの旅行記とは隔絶した深みにある。
豊富な写真が添えられているが、私の気を引いたのはこの1枚であった。
敦煌の郊外陽関に立つ王維の像である。
なんだ、これは! 王維は友を西安(長安)の郊外渭水まで見送ってあの有名は送別の詞を作ったのではなかったのか?
王維の思いがこの石像に乗り移って陽関まで飛んで来たのか?
元二の安西に使いするを送る 王維
渭城の朝雨 軽塵をうるおし
客舎青青 柳色新たなり
君に勧む 更に尽くせ 一杯の酒
西のかた陽関を出づれば 故人無からん
送別の詞といえば万人が思い浮かべるこの詞を、65年前に我らに教えてくれたのは豊橋東高校の坂柳童麟先生であった。
今に脳裏に刻まれて消えることがない。遥かに師恩を憶う。
~~~杜甫・春望~~~
妻は10年前に乳がんの手術をうけ、その薬害であろう、めっきり髪が薄くなった。
それで今年になってウイッグを付け出した。
最近、「地髪が薄くてウイッグが留まらない」と嘆く。
たちまち私は杜甫の<春望>を想起した。
太平洋戦争敗戦後の我らには殊更に身に沁みた詞である。
国破れて山河あり
城春にして草木深し
・・・・・・
結句2区
白頭を掻けば更に短く
すべて簪(しん)に絶へざらんと欲す
~~~漢詩の作法~~~
たまたま漢詩を思い出すことが重なり、はて自分でも作ってみようかと、ちょっとだけ思った。
しかしその世界は予想以上に厳しい世界であった。
かって連歌に、何句目に花の句を入れろ、月の句を入れろ、恋の句を入れろとと約束事があってなんと面倒な世界かと思ったが、漢詩はそれ以上にきまりの多い世界であった。
「押韻」の言葉は知っていたがとても簡単なものではない。何万字とある漢字が必ず106個の韻目のどれかに属し、同じ韻目の中で押韻しなければならない。
「平仄」(ひょうそく)はもともと漢字の発音に由来するもので、どの字も平声(ひょうせい)、上声(じょうせい)、去声(きょせい)、入声(にゅうせい)のどれかに分類される。
漢詩を作るためには使用する字の韻目と平仄を知らねばならない。漢和辞典をひけば出ている。この確認作業を「圏発」というらしい。
「押韻」の規則
1.5言句では偶数句末に、7言句では初句と偶数句末に押韻する
2.押韻は「平声」30韻の中の同じ韻目に属する字で揃える
3.押韻には同じ字を使わない
4.押韻しない句末には「仄声」の字を用いる
特別ルール: ・通韻 ・冒韻 ・踏み落し
「平仄」のきまり
1.二四不同
2.二六対
3.一三五論ぜず
4.孤平の禁
5.下三連の禁
6.反法・粘法
7.同韻の禁
8.同字重出の禁
9.押韻には平声を用いる
10.韻を踏まない句の末字は韻字と逆の平仄にする
11.末字と5字目(5言句では3字目)の平仄不同
12.各句の頭字を同じ平仄にしない
例外.挟み平
老生の頭では何度読んでもこの規則を覚えられない。
「李白一斗詩百篇」と言われるが、李白の詩はどんなに酔っていてもこのルールを外れなかったという。
漱石も鴎外も立派な漢詩を作っているが、幼い頃からこのルールを叩き込まれたのであろう。
子規は案外このルールも連歌のルールも覚えられずに俳句に逃げたのではないか?
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漢詩作成アプリを開発してノーベル文学賞を窺う 黒潮丸