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2012.07.21

ショウケイを欣ぶ-独鈷の湯にて

昨日、修善寺に行った。

新井旅館で「幸田露伴の手紙を読む」という催しがあり、冷やかしに行ったのである。


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修善寺 独鈷の湯   右奥が新井旅館


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新井旅館にはこういう文人墨客の手蹟や書画が多く残っており、今回は幸田露伴の手紙を読む集まりだった。

私は古文書?読解に趣味は無いが、幸田露伴には深く惹かれている。


昭和30-50年代、真船豊という劇作家がいた。彼の戯曲が総合雑誌に載るほどの人気作家だった。


~~~塩谷賛「幸田露伴」から引用~~~~~~~~~

ある時真船が塩原温泉に寄ると同じ宿に幸田露伴が滞在中だった。

「ご紹介しましょうか」と宿の者に言われ、慌ててやめさせた。とても自分が露伴と対面出来るほどの人間と思わなかったのである。

数日考えに考えた末、普段ならお目にかかれないが旅先のことだから一目だけと心を決め、衣服を改め名刺一枚を手に参上した。いと静かに障子をあけると露伴は白髭を胸にひろげて大の字に寝入っていた。名刺だけを厳かに置いて引き上げた。

夕食をしていると番頭が現れ、幸田先生が「寝ていて大変失礼した。ただいまもしよろしかったらお出かけ下さい。」との伝言を伝えた。

真船は箸を置いてすぐ立ち、着物を着かえて出掛けた。露伴は黒絽の羽織の紐をきちんと締め、端坐して待っていた。

真船は自分のことをこう名乗った。「私は会津のいなかの酒屋の倅でございまして、ときどき東京へ商用で参りますものでちょっとこちらへ立ち寄りましたら先生が御滞在になっておられますよう伺いましたので、大層不躾ではございますがご挨拶申し上げました。」

相手は偉大な文人で自分は文士のはしくれに過ぎないという意識がこういう言をなさしめたのであった。


「おお会津から」と露伴。こうして二人の付き合いは始まったが、真船の方から罷り出でてお話を伺ってもせいぜい30分がやっとで早々にお暇して帰って湯に飛び込む。そのくせ朝になるとまた行きたくなって行く。

香道の話、茶道の話、ここにある蒲生氏郷野立ての岩の話、お柳さんの話など。そのお柳さんのことを心易く話すが誰のことか分からない。聞き返すのも憚ってやや久しく聞いたあと、やっと足利義政のお局で香道の創始者柳の局であった。これが露伴の話の調子であった。


「このあいだ東京から孫娘が来ましてな。この手すりから見ているというと、その孫娘がはだしになって急流の瀬を越しては川の中の洲へ行き、また早瀬を越してこちら側へ帰る。同じことを何遍も繰り返して遊んでおりまして、早くやめればいいのにと思って眺めていると頭に詩の一句が浮かんだのです。脱履(だっく)してショウケイを欣ぶ、という文句で、700年もまえあちらの人はこの孫娘と同じことをして自然を喜び、それを詩にまで詠んでいるのでして。これは蘇東坡の詩にある文句です。」

ショウケイが真船にわからない。相手にただす勇気はない。こんな句がわからないというのでは話の腰を折ってしまう。いろいろと案じて渉渓という字に思いいたった。


東京に帰ってから真船はショウケイを聞いてまわったが誰も知らなかった。そのうちの1人内田誠が露伴のところに出入りしていて、「先生自身に聞いたほうが早い」と実行してくれた。内田が「真船は渉渓だろうと自分できめておりますが」というと、「字が違う。小さく掲げる、その小掲だ。」と露伴が教えた。

それを聞いた真船は喜んで叫んだ。「ああ、目に見えるようだ。ちょいと裾を掲げて水を超すさまが。字というものはなんと恐ろしいものだ。」


その後久保田万太郎にこの話をすると、「日本にもそれと同じ詩がありますよ。」と言って、「夏川を越す嬉しさよ手に草履」という俳句を示した。作者は蕪村。

~~~~~~~~~~~~


私は独鈷の湯を見ていてこの一文、この一節が頭に浮かんだ。どこに出ていた文章だったか、何とか取り出そうとするがどうにも思い出せない。

一晩考えて、塩谷賛の「幸田露伴」(全4巻)の各章を辿って、やっと在所を見付けた。もう20年も昔に読んだ本である。

 

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