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2009.01.02

「蕨野行」村田喜代子

「蕨野行」(村田喜代子)を読んで呆然としている。
日本文学にこんな傑作があったのか!
<世代間戦争>について考えているうちに棄老伝説→姥捨て文学に入り込み、斉藤美奈子の書評で知った新潮今月号の「デンデラ」(佐藤友哉)を読み、「楢山節考」(深沢七郎)を再読し、「蕨野行」に辿り付いた。
しかし「蕨野行」は世代間の対立を扱ったものでも姥捨て文学でもない。
これは日本文学史上に屹立した独自の韻文文学であり、すでに古典の域にある。
大江健三郎の全作品と秤にかけてどちらが重いかというほどの作品だ。村上春樹など秤にもかからない。

何故それほど凄いのか。
220ページの小説ながら、これはもう一篇の詩なのだ。
文章にリズムがあり、惹起されるイメージに美がある。姥捨てを背景とする一時代の人間性のドラマが暖かく描かれる。

全篇、「お姑(ばば)よい」「ヌイよい」の呼びかけで始まる対話のみで成り立つ。
いつの時代、どこの土地とも知れない。使われる方言もどこのものとも知れない。
お姑は貧しい農村の庄屋のおかみである。部落の女仕事の頭(かしら)である。連れ合いはもう亡くなり息子が代を継いでいる。
ヌイは息子の後妻である。まだ16歳でしかない。先妻は病死した。

この部落には<ワラビ野入り>の掟があり、男女を問わず60歳になれば部落を出てワラビ野に入らねばならぬ。
お姑=レンにもワラビ野入りの時が来た。
レンはヌイに頭としての心得を伝えようとする。
ヌイにとって年の離れた夫は怖い存在でしかない。実の母以上にレンを慕う。

野に入ったレンはそこでの厳しい生活をヌイに伝える。
ヌイは凶作の部落や家族の状況を伝え、教えを乞う。
実際に伝言が行き交うわけではない。手紙を送るわけではない。ただ気持ちの交流である。内容は殆ど相聞歌といっていい。
全体が、<人を恋うる唄>だ。

~~~~~~
「蕨野行」は1994年に文芸春秋社から刊行された。現在文春文庫(1998 500円)で入手出来る。
村田喜代子は1945年北九州市生まれ。同人雑誌等を経て1962年芥川賞受賞。
私は村田喜代子をまったく知らず、本書も知らなかった。発表当時絶賛を博したというがさもありなん。
しかしもっともっと知られていい作品だ。

~~~冒頭部分を引用する~~~
お姑よい。
永えあいだ凍っていた空がようやく溶けて、日の光が射して参りたるよ。鋸伏山を覆っていた雪も消え始め、山肌の残り雪がとうとう馬の形を現せり。まだ尻尾のところは出ずなるが、この数日の日和りが続くなれば、すぐ馬の姿も出来上がりつろう。春が参るよい。

ヌイよい。
残り雪の馬が現われるなら、男ン衆の表仕事の季節がきたるなり。田の打ち起こしが始まりつろう。裏の庭にもコブシの花が咲いた。大きな花が五十も百も、真白に満開なるよ。田打ち桜と申して、昔からコブシは百姓に田打つ支度せよと知らせるやち。男だちが田の用意をするあいだに、女子等は大豆選り分けて良き種を取り置いたか。味噌大豆を煮るべしよい。味噌は一年中欠かせぬものなれば、これを種播きの前の仕事とするやち。
団右衛門はこの里の庄屋なれば、男仕事の頭領。したら嫁のおめは女仕事の頭やち。テラにもいろいろ尋ねて相談し、名子、子作のかか等、下女だちを使うて、おれがしてみたよにやるがよい。


 

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Comments

三太郎さん、コメントどうも有難う。

言われて調べたらDVDで出ているのですね。恩地日出男監督です。
6000円なので来月の小遣いで買いましょう。

あけましておめでとうございます。

この蕨野行は映画で見た覚えがあります。
TVで放映されたのを見たのですが、引用された冒頭部分は映画の冒頭を彷彿させます。
映画は春の光景から始まって、最後の雪の風景が印象的でした。
小説は読んでないのですが映画の雰囲気も原作に沿ったもののように感じました。

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