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2006.07.10

100年前のオープンガーデン

先日横浜三渓園に行ったところ、開園100周年の記念カタログを発行していたので購入した。
巻末の資料編に出ていた往復文書をご紹介する。
オープンガーデンをしている者にはとても面白い。

寄稿者の前田曙山は当時の大衆作家で、庭園批評もしていた人らしい。前田は三渓園が一般公開されていると知って驚いている。
対する原三渓は園主であり、生糸貿易で当時神奈川県の最多額納税者であった。趣味人として茶器書画の蒐集でも名高い。


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三渓園の設計について   前田曙山
【横浜貿易新報】明治43年3月7日
本牧の三渓園は、富豪原氏の別墅としてかつ又横浜唯一の庭園として有名である。予は園芸上参考の資料として一度参観の栄に浴さんとして果たさざりしに、偶ま畏友富田君が文筆の士を此処に招くに陪して、去る2日初めて宿志を果たすを得た。夫で聊か園内を瞥見して感じた所のものを以って愚意を述べるのは、冀はくは園主が庭園を公開するの意に副い、更に富田君が客を迎ふるの好意に酬ゆる所以であろうと信じる。
凡そ庭園の設計を批評するには、設計図を一見し、設計者の説明に聴き、園主の嗜好をも知らなければならぬ。然るに予は全然此の三者を欠いて居る。殊に四季を通じて園内の風致を見た後でなければ、一言隻句を加える事が出来ぬ筈である。然に予は春三月、梅花爛開の時に只一度見しを言うに過ぎぬから、批評眼を縦って之を見ることは出来ぬ。只通りすがりの管見として所感を陳るに過ぎぬのは、三渓園に対して敬意を表するの途で無いかも知れないが、然し陸目八目の譬え、或るひは他山の石たらずとも限るまいと、聊か盲蛇の自信を促かすを恕せよ。
-略-
(・・・予は)三渓園を以って、公開の庭園ではないと思って居たので有る。只原氏の別墅として、園主が逍遥の閑庭で、雲賓深く韜まるる所の禁苑とのみ信じて居たのに、豈図らんや、縦覧御随意の公開地ならんとは。
凡そ我邦の富豪素封家と称すべき人々が巨大な園囿を有して居る。然し能く海の如き度量を以って、自己の庭園を公開する者ありや、恐らくは否と答ふるの外は無い。勿論俗人の雑踏、園内の掃除の煩、樹木損傷の害等、公徳心の乏しい参観人が来るので有るから、已むなく閉鎖するといふ一大理由があらうけれども、要するに自分の物は自分丈で楽しむといふ個人主義が跋扈するので、又勢い夫に傾き易きに拘わらず園主が敢えて公開する所以のものは、衆と共に楽しむといふ、極めて崇高なる観念を実現したのを見て、其人格の偉なるを認める。
予は常に園芸に関する予の著書に於いて、花卉は独占すべき者ではない、娯楽としても、科学としても、必ず衆と共に見るべきもので有ると、再三ならず唱道するけれども、之を事実に於いて用いる人はいない。其之あるは実に三渓園あるのみ。
(この後、庭の各部分についての指摘が続く)-略-


~~~~~~
前田曙山君に謝す   原三渓
【横浜貿易新報】明治43年3月15日
去る五日より十日に亘りて横浜貿易新報紙上に連載されたる前田君が「三渓園の設計に就て」の一文は君の該博なる識見に因て築庭上最も尊敬すべき批評を下されたるものにして僻遠の山荘此の貴ぶ可き批評の料となるを得たるは当に園主の喜とする所のみならず山霊も亦当に髣髴として君の案上に向て感謝するなる可し、余は今夜君の全文を再読して興懐自から禁ずる能はず三更燭を燃して柄になき筆硯三昧御笑いの程も顧みざるものは天下未見の知己に報ゆる奔馬の情止め難きが故と御察披下度候
-略-
・・・申す迄もなく天の領域たる自然の風景を利用して其の大部分を構成したるものなれば此れを公開するは寧しろ当然の義務にして然らざれば天の領域を盗賊すると異なる所なかる可し、されば世上の個人的な庭園が-略-此れに因て直に個人性の襟度の広狭迄をも高下せんと試むるは漁者が鳥の山に栖むを譏ると択ふ所なからん幸に広き側に廻されたる余の得意は去ることながら斯くては一般の庭園に対して甚だ同情に忍びざる点もあれば聊か本来の相違に就て茲に一言して君の一顧を請う所以に候
園の設計に就ては大小となく褒貶共に余の責任に属す従て世上識者の批評を聞て其欠点を補足せんことを望むの情切なれども不幸にして未だ其責任ある批評を聞くを得ざりしが今や初めて空谷跫音に接したるの心地致候、君の批評は金玉燦然として適切に園の欠点を指導せられたるのみならず其驚く可き豊富なる植物上の学殖は此を請ふて未知の植物を採集し春の雨秋の露に其紅紫を泣かしむるを得ば山荘の清興長へに尽くる時なからん、-略-
茲に余は不日簡を折して君に望む所あらんとす君願くは半日の清閑を分ち林下相携へて遍遷として暗香不動の裡君の清想を語るを聞かん君幸に之を諒せられんことを 不宣

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